世界の構成分子
ここで言う「世界」とは個々人が見えている「主観的な世界」であって、いわゆる"Earth"とか"World"ではないということを冒頭にて断っておく。
つい昨日のこと。合宿前だし伸びてきた髪もいい加減鬱陶しくなっていたので、美容室に行った。外の空気は刺さるように冷たい。京王八王子からほぼ真っ直ぐ歩くと到着する、行きつけの場所である。
本当は2時間で終わるはずが、ブリーチして銀髪にしたいなんて言った故にこれは起きた。一種の巡り合わせなのかもしれない。単なる偶然でもある。
規定の2時間を過ぎると、黒髪でキレイめのコートに身を包んだ、20代前半の男が入ってきた。次に予約を入れた客らしい。しばらくして男が口を開いた。
「このへんすげーデモやってますよね?あれ右翼ですか?」
おいおいマジかよ、宗教と政治と思想のお話は外ではタブーよって習わなかったか????
しばらくすると男はヒートアップしてこう続けた。
「原発賛成ですね。たとえ福島の事故があったとしても、あの周辺がどれほど潤っていたか、その他の原発周辺の雇用も創出してるし、なにより日本の電力事情を考えれば…」
ここは大衆居酒屋じゃないぞ?美容室来たんだからもっとソフトな話題ないの???
同時に怒りもふつふつと湧いてきた。だいたい原発についてズケズケと評論するお前の隣に座ってるのは福島出身で、実家は原発から50キロの所にある人間だ。当時3号機の水素爆発のタイミングで山形に自主避難したことがある人間だ。原発周辺が潤っていたか否か、それでもどのくらい過疎化していたか、原発事故処理による雇用の大半は2次、3次にも及ぶ下請けでまかなわれているとか、地元は原発作業員を送迎するバスが毎日運行されていて、震災前より治安が悪化したと糾弾されているとか、分かってないだろ。東電の甘い認識と、東京の電気のために故郷がゴーストタウンになった人間がいるとか、実感を伴って考えたことないだろ。故郷を追われた人間が、月に一人あたり10万円の支援金を貰って、一部の人間はパチンコに朝から並んでいるその姿。線量計を持った家族連れ。ガイドニングポストと呼ばれる線量計が設置された学校。天気予報とセットで今も毎日伝えられる放射線量。何もかもコイツは見たことない。でもそれを知らないことも知らないから、こうして美容室でコメンテーターごっこができるわけだ。
綯い交ぜになった感情をここでただ単にぶちまける非生産的なことをしたいんじゃなくて、なにか考えることがあって、伝えたくてこうして書いてる。
要するにまず思ったのは、自分としては特に考えた発言じゃなくても、どこで誰が聞いてるか分からないわけで、外での会話には気をつけたほうがいいなってこと。前ブログで「大学生はもっと宗教とか政治とかについて喋るべき」みたいなこと書いたけど、それもさすがにTPOはあるよねと。例を出せば、深夜に乗ったタクシーの運転手さんに、「韓国のレーザー照射事件ありましたよね?あれどう思いますか?」なんて聞くのは頭おかしくね?というわけ。今回は「誰が」の側に回って僕はイライラしたわけだけど、逆のパターンも全然ありうるから気をつけたい。
で、もう一つ思ったのが例の男がペラペラ喋ってたことを抽象化したらこういうことに落ち着くのかなっていうことなんだけど。
人間それぞれが見ている世界は全部違っていて、その世界の構成分子は全て、今までの体験、経験、見聞に基づいている。かつ人間は自分が見たいものにしか目がいかないから、どんどん意見は偏見という色眼鏡をかけた状態に陥っていく。きっとこれはどう頑張っても抗えないことだとも思う。でもアンテナを常に張って知ろうとする態度とか、「自分は偏見を持っている」という自覚を持つことは必要なんじゃないだろうか。色眼鏡が消えることはなくても、色素を減らすことはできる気がする。
世界の構成分子が細分化されればされるほど、世界はクリアに映るんじゃないだろうか。